素因減額
交通事故によって被った損害が、被害者の素因(既往症、もともとの障害、被害者の性格等)によって、拡大されたとみなされる場合には、過失相殺の規定を類推適用して、加害者の賠償額が減額されることがあります。
これを素因減額といいます。
素因減額は、明文上の根拠はありませんが、判例によっても認められいます。
素因には、被害者の性格的側面による「心因的要因」と被害者の既往症や身体的特徴といった「体質的要因」があります。
最高裁判例によると、心因的要因が寄与した場合(最高裁 昭和63.4.21 交民21.2.239)や被害者の既往症が寄与した場合(最高裁 平成8.10.29 交民29.5.1272)には、素因減額できるとし、一方、身体的特徴については、素因減額できない(最高裁 平成8.10.29 交民29.5.1255)としています。
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高齢者の素因減額
高齢者の多くは、加齢に伴う生理機能の低下、経年性の変化、種々の既往症や治療歴を有しています。
ただ、高齢であるという理由だけで素因減額されることはなく、その程度が著しく、かつ、損害の発生、拡大に対する寄与が明らかであることが必要です。具体的には、高齢者によくある骨粗しょう症、高血圧という診断だけでは減額の対象にはなりえないということです。
認知症
認知症は高齢者の素因減額において、問題になりやすいです。
高齢の被害者が事故後に認知症を発症してしまった、あるいは、事故前から認知症の症状はあったが、事故後その症状が悪化してしまったということがあります。
もともと認知症が存在し、事故により症状が悪化したことが明らかな場合は、素因減額の対象になるといえるでしょう。
事故当時、認知症の症状が特になかった場合には、事故が原因で認知症を発症したのか、あるいは、加齢によるアルツハイマー認知症等、交通事故以外の原因により発症した可能性も否定できない場合もあるので、交通事故と認知症発症の相当因果関係自体が争われることも少なくありません。
他方、交通事故が原因で長期の入院をし、環境の変化によるストレスが原因で認知症を発症したような場合、発症の直接の原因が環境の変化によるストレスという外傷以外のものであったとしても事故との因果関係を否定しがたい場合もありえます。因果関係の立証を困難にしている原因の1つに、事故前の症状を証明する資料が乏しいということがあります。事故以前より病院で何らかの治療を受けているような場合は、比較的楽に証明できるでしょうが、そうではない場合、家族の証言などから推測するほかなく、客観性に乏しいということになってしまうからです。
いずれにしても素因減額を判断するのは、個々の事案について慎重に検討されるべきものだと思います。



